T氏による巨額詐欺事件の破産開始決定を受けて
2021(令和3)年4月13日
弁護士 長 岡 健 太 郎
(連絡先)弁護士法人青空
尼崎あおぞら法律事務所
06-6493-6612
弁護士 吉 田 哲 也
本年1月20日、私たちは、ある男性の代理人として、兵庫県西宮市在住の女性(T氏)について、債権者として破産開始決定の申立てをしました。
T氏は、男性を含む多数の被害者から多額の金銭を騙し取った詐欺の犯人であり、被害者らに対し、騙し取った金銭を賠償する義務があります。寄せられている被害情報によれば、十数年前から被害が発生し始め、被害者数10数名、被害額数千万円、被害者の居住地域は関西地方の他、遠くは中国地方、関東地方、そして、韓国にまで及んでいます。
これら被害者に対する支払いは停止して久しく、T氏に任意の賠償を期待することはもはや不可能です。T氏の破産手続きは、その騙し取った金銭の行方を調査し、流出した財産を取り戻し、被害者らへの被害回復を図るために必要なものです。
3月12日及び4月9日、裁判所は、「審(しん)尋(じん)」期日を開き、T氏の言い分を確認するために、同人を呼出しました。しかしながら、同人は、両日とも、姿も見せませんでした。これにより、同人の司法軽視の姿勢があらためて浮き彫りになりました。私たちは、この期に及んでの、T氏の不誠実な態度に怒りを禁じえません。
結果として、裁判所は、私たちの求めに応じ、4月12日付けで、T氏について破産手続開始を決定し、破産管財人が選任されました。
ところで、T氏はろうあ者であり、被害者もろうあ者またはその親族であって、本件詐欺事件はろうあ者のコミュニティ内で発生したものです。被害者らは、これまでも、警察や行政機関、法律家などに対し、幾度となく、その被害を訴えてきましたが、健聴者の社会は、そうした声に耳を傾けることをしてきませんでした。これほどの多人数、巨額、広域の詐欺事件が長期にわたって明るみにされなかったのは、私たちの社会が、ろうあ者とそうでない者の間にそびえる社会的障壁を放置してきたからに外なりません。そうした背景を考えるとき、今般のT氏の破産手続きの開始は、ろうあ者の社会に生じた出来事に、これまでろうあ者を拒絶し続けてきた司法の網を被せるものであって、上記の社会的障壁を突き崩す一歩と位置づけられると考えます。
今後、裁判所の監督のもと、破産管財人による厳正な調査が行われます。私たちは、被害者のみなさまなどから寄せられた情報を適宜破産管財人に提供して、管財業務の遂行に全面的に協力していきます。また、T氏の詐欺による告訴も並行して行なってまいります。そして、T氏による詐欺被害の全容と騙し取った多額の金銭の流れを解明し、T氏に民事刑事の法的責任をとらせ、被害者に対する被害回復が図られることを強く期待するものです。
以上